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コラム

80年代の水準に回復を

-次の指導要領改定カギに-

2005年3月12日 日本経済新聞

東京理科大理学部 澤田 利夫

1. 算数・数学 深刻な学力低下

子どもたちの「数学嫌い」や「学力低下」が深刻な問題になっている。学力低下の原因の1つは、文部科学省が「ゆとり教育」の名のもと、1980年代以降の学習指導要領の改訂で、算数・数学や国語など基礎強化の学習内容や授業時間を削減してきたことにあると考えている。

特に2002年に実施された学習指導要領では「学校での教育内容が過密だから、子どもが授業を理解できない」との理由で、「完全学校週5日制」「学習内容の大幅削減」「総合的な学習時間」を導入し、基礎教科の大幅削減に踏み切った。

これを算数・数学科でみると、小学校6年間の算数の総授業時間は869時間で、70年代より178時間も少ない。これは現在の小学校算数科の1年分の時間数を超える。中学校の数学科は315時間で、70年代より105時間も減った。削減幅は、現在の中学校数学科の1年分に匹敵する。

こうした授業時間数削減は、学力低下だけでなく、今後の算数・数学教育のあり方にも大きな影響を与えるのではないかと懸念する。

学習指導要領改定で、実際の授業はどのように行われているかを知るため、ある教科書会社の教科書と教師用指導書を、70年代から現在まで年度ごとに調べてみた。

表1は、小学校の分析結果で、6年間の教科書の総ページ数、復習・問題演習や「分数」「九九」のページ数を示した。カッコ内のパーセントは70年代を100としたときの割合である。

学習指導要領で、この間の算数の週あたり指導時間数をみると、70年代は1学年が3時間、2学年が4時間、3学年が5時間で、4学年以降が全て6時間だったが、現在は1学年が3.3時間、2学年が4.4時間で、3学年以降は全て4.3時間になっている。

表から明らかなように、現在の教科書は70年代に比べて総ページ数で26%、復習・演習で63%も少ない。ただ具体的な指導内容は、帯分数の計算が含まれていない分だけ、「分数」の分量はすうないが、「九九」では増えている。教師用指導書を基に実際の授業時間を推計すると、「分数」は70年代の65時間が現在は63時間とほぼ同水準の時間数を確保している。

2. 復習・演習の減少極端

だが、実際の各種調査結果などをみると、小学校では分数の計算の成績が年度ごとに低下している。「分数」を扱う時間数が減ったためだと思っていたが、表でも明らかなように、指導時間数が減ったのではなく、学校での復習や演習の分量が極端に減ったことに1つの原因がありそうだ。

表1:小学校の算数教科書のページ数
1970年代 1980年代 2000年代
総ページ数 1,280(100%) 1,120(88%) 942(74%)
復習、演習 142(100%) 131(92%) 52(37%)
「分数」の扱い 74(100%) 96(130%) 61(82%)
「九九」の扱い 26(100%) 35(135%) 33(127%)

次に、中学校については、教師用指導書にある標準指導実数や問題演習時間数などの統計を年度ごとに表2に示した。

表2:中学校の数学教科書の配当時間数
1970年代 1980年代 2000年代
指導時数 370(100%) 307,5(83%) 234(63%)
問題演習時数 54(100%) 22,5(42%) 18(33%)
「数と式」時数 158(100%) 132(84%) 110(70%)
「図形」時数 147(100%) 125(85%) 91(62%)

学習指導要領の指導時間数でみると、70年代は全学年とも週4時間、80〜90年代は1学年のみ週3時間で、2,3学年は週4時間、現行は全学年週3時間と変化した。それに伴い教科書の年間指導時数は減少し、現在は70年代より37%も減った。問題演習の時間は67%も減っている。「数と式」や「図形」領域でも減少の仕方が著しい。小学校と同様に、学校での問題演習の時間が少ないことが、習熟のための学習時間を少なくし、学力の二極化に拍車をかけたと推測できる。

3. 授業時間の国際比較調査

日本の算数・教科書の授業時間数は、国際的にみても少ない。「学校の授業時間に関する国際比較調査」(国立教育政策研究所、2003年3月)によれば、日本の小学校6年間の算数科の総授業時間数は654時間で、米国1080時間、フランス952時間、英国870時間などの先進国に比べて極端に少なく、OECD先進10カ国平均の803時間も大幅に下回った。総授業時間数に対する割合は日本は16%。米英は22%、フランス19%、OECD平均は18%だった。中学校も同様で、日本11%に対しOECD平均は14%。

こうした資料を参考に、次回の学習指導要領の改訂では、小学校の算数は1年生が週4時間、2〜6年生は同5時間、中学校数学は全学年週4時間とすることで、80年代のカリキュラムに戻すことを提案したい。

教科内容・事業時間数を大幅に削減した現行の学習指導要領では、定着を図る問題演習や復習の時間がとれず、これでは、基礎学力の向上が図れないからである。

4. 80年代の水準に回復を

こうした事情は他の基礎教科も同様だろう。

ただ現実問題として、週6日制に戻すのは難しい。5日制を維持しながら、たとえば1単位時間を40〜45分に短縮することで時間数を生み出し、それを基礎・基本の充実や発展学習の指導に当てることにしたらどうだろうか。

国語や算数・数学等の基礎教科の指導時間数を、80年代の水準に回復することが急務である。

参考文献

  • 2005年3月12日 日本経済新聞 掲載