インターネット・エクスプローラー(Internet Explorer 4以下)、ネットスケープ (Netscape 4.7以下)、テキストブラウザなどに対応したモードで表示しています。
数理検定協会はスタイルシートという仕組みを使用したページを提供しており、お使いのブラウザにより表示が異なりますが、サイト上にある情報はすべて問題なくご利用になれます。

コラム

授業はそんなに過密か

2004年11月8日

東京理科大理学部 澤田 利夫

子どもたちの「数学嫌い」や「学力低下」が、教育現場やメディア等で深刻な問題として受け止められている。算数や数学などの学力や興味・関心が低下してきた原因の一つは、文部科学省が「ゆとり教育」の名のもとに、80年代以降の学習指導要領の改訂によって、算数・数学や国語などの基礎教科の学習内容や授業時間を削減してきたことにあると、筆者は考えている。

小・中学校の算数・数学や国語は、昔から「読み・書き・そろばん(計算)」が大切と言われるように、後のあらゆる学習の基礎となるものであり、人間の知的教育の根幹を担うものと言える。だから、小・中学校の段階では、時間をかけた反復練習によって、基礎的な計算能力や読解力を習熟させなければならない。

しかし、授業時間が少なくなると、教師も時間をかけて教えることが難しくなる。反復練習する時間も当然限られてくる。その結果、児童・生徒が十分理解しないままに、次の段階に進まざるをえない。そうすると、授業についていけない子どもがでてくる。

それに対して、文部科学省は「学校での教育内容が過密だから、子どもが授業を理解できない」として、2002年4月から実施された新しい学習指導要領では、「完全学校週五日制」、「学習内容の大幅削減」、「総合的な学習時間」を導入すると共に、小・中学校の国語や算数・数学などの基礎教科の学習内容や授業時間数を大幅に削減させた。

その結果、小学校6年間の算数の総授業時間数は869時間になり、70年代からみると178時間も減少している。これは現在の小学校算数科の1年分の時間数を越えている。中学校の場合も数学科の総授業時間数は315時間になり、70年代からみると105時間と大幅に減少した。削減された時間は、やはり現在の中学校数学科の1年分に匹敵する。こうした授業時間数の削減が、学力低下の原因になること以上に、これからの日本の子どもたちの算数・数学教育に大きな影響を与えることになるのではないかと懸念される。

学習指導要領で決められた意図的な内容に対して、実際の授業ではどのように行われているかを知るために、ある社の小学校用教科書を年度ごとに調べてみた。1970年代(現代化)、80年代(ゆとりと充実)、90年代(個性化、多様化)、2000年代(生きる力)の年代別に小学校第1学年から第6学年までの全体分量(ページ数、配当時間)等の一部を表にした。

表 教科書の分量や配当時間数/
年代 1970年代 1980年代 1990年代 2000年代
小学校
総ページ数 1280(100%) 1120(87.5%) 1044(81.6%) 942(73.6%)
復習、演習 142(100%) 131(92.3%) 100(64.8%) 52(36.6%)
「分数」の扱い 74(65時間) 96(68時間) 89(73時間) 61(63時間)
「九九」の扱い 26(25時間) 35(37時間) 29(37時間) 33(36時間)
「珠算」の扱い 21(15時間) 10(10時間) 5(6時間) 4(3時間)

この表から明らかなことは、現在の教科書は1970年代に比べて総ページ数で26%、復習・演習で63%も削減されていることである。「分数」、「九九」、「珠算」の指導については、教科書のページ数と( )内に教師用指導書にある指導時間配当を掲載した。指導内容が軽減された「珠算」以外の「分数」や「九九」指導の扱いには大きな変更はない。ただし、現行の「分数」では帯分数の計算が含まれていない分だけページ数や指導時間が減っていることになる。

しかし、各種調査などの結果から小学校では分数計算の成績が年度ごとに低下していた。指導時関数が少ないためとも考えてみたが、上表でも明らかなように学校での復習や演習の分量が1990年代以降極端に減少していることに一つの原因がありそうだ。

さらに、国際的にみてもわが国の算数・数学科の授業時間数は、他の国に比べて少ない。「学校の授業時間に関する国際比較調査」(国立教育政策研究所、2003年3月)の結果によれば、わが国の小学校6年間の算数科の総授業時間数は654時間で、アメリカ1080時間、フランス952時間、イギリス870時間などの先進国に比べて極端に少なく、参加15か国平均759時間を大幅に下回っていた。また、全教科の総授業時間数に対する割合では、日本の16%に対して、アメリカ、イギリスは21%、フランスは19%で15か国平均では17%となっていた。中学校についても同様の傾向がみられた。

「学校での教育内容が過密だから、子どもが授業を理解できない」として改訂した現行のカリキュラムでは、基礎学力の向上は図れない。算数・数学科の目標の中の「算数・数学的活動」をどのように具現化するか、「総合的な学習の時間」の活用や「課題学習」の進め方、個に応じた指導として「発展的な学習や補充的な学習」の推進など、算数・数学教育で解決しなければならない課題が山積しているが、その解決のための唯一の方法は基礎教科の指導時間数を1980年代のレベルまで回復することが先決である。

参考文献

  1. 日本数学教会編、「数学文化」no.3、004.10.20掲載