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コラム

やはり学力は低下していた

−高校教育課程実施状況調査結果から−

東東京理科大学理学部 澤田 利夫

文部科学省は1月23日、全国の高校3年生を対象にした学力調査の結果を公表し、翌日の新聞各紙は数学や理科の学力が大きく低下している、学力は二極化していると報じた。

この調査は、2002(平成14)年11月に全国の全日制高校3年生から8%に当る10万5千人を無作為に抽出して国語、数学、理科(物理、化学、生物、地学)、英語の4教科7科目を実施したものである。これは、2002年1,2月に全国の小学校5年生(8%)から中学校3年生(6%)の約45万人を対象に、国語、社会、算数・数学、理科、英語(中学生のみ)の学習状況の把握のために国立教育政策研究所が実施した「教育課程実施状況調査」に続くものである。

今回の調査で文部科学省(以下文科省という)が明らかにしたペーパーテストの結果の要点は次のようなものであった。

「学習指導要領の目標・内容に照らした全国的な生徒の学習状況に関しては、調査を実施した4教科のうち、

  1. 国語、英語の2教科において、設定通過率と比較して上回るまたは同程度と考えられる問題数が半数以上を占めている。
  2. また、数学、理科の2教科において、設定通過率と比較して上回るまたは同程度と考えられる問題数は半数未満である。」1)

と結論付けている。

これらの結果は後で詳述するとして、2002年12月14日発表「平成13年度教育課程実施状況調査結果」の小・中学校のペーパーテストについては、次のように述べられていた。

「学習指導要領の目標・内容に照らした児童生徒の学習状況は、実施した延べ23教科(小学校5,6年生の国語、社会、算数、理科、及び中学校1,2,3年生の国語、社会、数学、理科、英語)のうち、3教科(中学1,2年理科及び中学3年の英語)以外は、想定した設定通過率以上で『おおむね良好』であった。また、過去の同一の問題と比較して、義務教育の最終段階の中学3年の状況を見ると、国語及び英語では上昇、社会、数学、理科では『変化なし』となっており、学力に低下傾向は無かった。」と結論付けた。

しかし、多くの新聞等の報道や識者からは「学力は低下していなかった」ということに対する反論が沸き上がり、結果的には文部科学省は学力低下に対する施策を次々と講ずることになった。

ここでは、今回2004年1月23日公表された高校3年生の調査結果について、「数学I」の結果を中心に分析することにした。これは、2002年度の「第45回理数系教員のためのリフレッシュセミナー(数学)」の資料「やはり学力は低下していた」(pp.56〜69)に続く報告である。

1 ペーパーテストの結果

1.1 「設定通過率」と正答率の比較による判断

文科省が今回の結果を受けて、国語、英語の学力は良好、数学、理科は予想以下だったと判断したのは、「設定通過率」というものを根拠にしている。ところで、「設定通過率」とは、結果の概要2)によれば、「学習指導要領に示された内容について、標準的な時間をかけ、学習指導要領作成時に想定された学習活動が行われた場合、個々の問題ごとに正答、準正答数の割合の合計である通過率がどの程度になるかということを示した数値である。設定通過率については、問題作成委員会において、個々に問題における出題のねらいを踏まえて数値を決定し、分析委員会にその数値の妥当性について慎重に検討した。数値については、調査結果が明らかになる前に決定している。」と説明している。

ここで、「学習指導要領作成時に想定された学習活動が行われた場合」とわざわざ断ったのは、どういうことだろうか。正答率が設定通過率より低かったということは、指導が十分されていなかったということなのだろうか。新学習指導要領では、内容を大幅に削減し、最低基準を設定し、「算数・数学や理科などは、新授業時数のおおむね8割程度の時数で標準的に指導し得る内容に削減した」と旧文部省当局は数年前に力説していたことを思いだす。そして、「このカリキュラムを忠実に実行すれば、全ての子どもは100%理解できる内容で構成されており、落ちこぼれる子どもはでないはず」と文部大臣談話までだしたくらいの意気込みであった。

さて、今回のような学力調査を実施するときは、各問題に予想正答率を設定し、難易度に考慮して全体平均で5〜7割前後の正答率で構成されるように設計されるのが普通である。そのためには、事前にプレ・テスト(事前調査)などを実施して難易の程度を調整するものである。

今回の調査では、事前に問題作成委員が各問題についての「設定通過率」を設けた。この通過率を根拠にして、学習効果を測定する判断規準にしたのである。即ち、「正答率−設定通過率」の値が5%以上の問題は予想より学習効果が上がった問題、-5%以下の問題は予想に反して学習効果が上がらなかった問題と判断したのである。

 これによると、「設定通過率を上回るもの」と「同程度のもの」の問題数の合計と「設定通過率を下回るもの」の問題数とを比較して、国語I、英語I では「設定通過率を上回るもの」と「同程度のもの」の問題数の合計が全体の半数以上で、数学Iと理科の4科目は「設定通過率を下回るもの」の問題数が半数以下になっていた。国語I、英語I は設定通過率より良かったので学習効果が現れていたということになるが、そもそも通過率の設定に問題がある。

各問の設定通過率は、予備調査の結果や問題作成者や分析委員会の合議によって設定されたものであるが、予想正答率の設定が甘かった、または低く見積もったということになるとも反論できる。同様な手法で「設定通過率を下回るもの」と「同程度のもの」の問題数の合計と「設定通過率を上回るもの」の問題数とを比較すると、明らかに向上と考えられるものは国語Iのみであった。さらに、「同程度のもの」の問題数は国語Iでは44題中11題(25%)、数学Iでは30題中5題(17%)、英語Iでは52題中21題(40%)、理科全体では213題中39題(18%)であった。予想通りのものは数学や理科では全体の17%、18%しか無かったことになり、大半は予想を覆す結果になったことになる。

次の表1は、公表された調査結果3)のデータをもとにして各教科の問題毎の正答率と設定通過率の差を求めた。国語と英語以外はすべての科目で設定通過率が勝っていたことになる。

表1 設定通過率と正答率の差:正答率−設定通過率(%)
教科 問題数 設定通過率を下回る 同程度 設定通過率を上回る 正答率
a
(%)
設定通過率
b
(%)

(a-b)
(%)
-20%
以下
-20%
〜-5%
-5%
〜5%
5%
〜20%
20%
以上
国語I 44 2 5 11 24 2 71.5 66.6 4.9
数学I 30 4 20 5 1 0 50.2 61.2 -11.0
英語I 52 2 14 21 15 0 59.3 60.2 -0.9
物理IB 51 14 17 8 10 2 50.2 59.1 -8.9
化学IB 53 7 25 11 10 0 48.1 54.4 -6.3
生物IB 54 16 23 10 5 0 45.7 58.5 -12.8
地学IB 55 14 25 10 6 0 49.1 61.1 -12.0
  • (注)問題ごとに「正答率−設定通過率」の値を求め、その値によって分類した。

上表の通り、設定通過率より20%以上も離れた正答率の問題が数多くある。

実際の正答率に比べて過小評価(underestimate)した問題(差が20%以上)または予想をはるかに超えてよかった問題として、国語で2題、物理で2題あった。国語では、A4一4(文脈に即して漢字を正しく書く)正答率88.9(設定通過率65%)、A4三1(漢文を書き下す)正答率83.4%(60%)の2題、物理では、B1(2)(最大摩擦力と垂直抗力の関係について理解している)正答率88.8%(設定通過率60%)とB12(3)(グラフから論理的判断に基づき起電力を求めること)正答率75.7%(45%)の2題であった。

一方、過大評価(overestimate)して実際の「正答率−設定通過率」の値が-20%以下になった問題は、国語2題、数学4題、英語2題、物理14題、化学7題、生物16題、地学14題で、これらの問題は予想をはるかに超えて悪かった問題であった。とくに、理科に多くの期待外れの問題があった。これらの問題は設定通過率を大幅に下回った問題で、期待通りに学習効果が上がらなかったとされるものである。

期待した通過率より大きく20%以上はずれた問題のうち、国語IではA4四1(敬具に対して、「拝啓」と書く)正答率34.9%(設定通過率65%)、B3四(文章の主題を踏まえて、自分の考えをまとめる)27.1%(50%)の2題、数学IではB2(3)(解の公式を用いて二次方程式を解く)正答率40.2%(設定通過率65%)、B6(期待値を求める)39.3%(60%)、B7(1)(三角比の値)34.9%(60%)、B7(2)(鈍角の三角比の理解)33.4%(60%)の4題、英語ではA2(3)(聞いて理解する)正答率34.7%(設定通過率60%)、B20(内容を考えて英語で書く)20.2%(45%)の2題であった。

理科については、物理14題(全体の27%)、化学7題(13%)、生物16題(30%)、地学14題(25%)が設定通過率より大きく正答率が外れた問題であった。その中でも設定通過率より40%以上の悪かった問題は、物理のB1(最大摩擦力と動摩擦力の大小関係と等速度運動の理解)正答率29.5%(設定通過率70%)、化学のA 1(智角柱では、最も多い成分元素が酸素)正答率22.6%(設定通過率65%)の2題であった。

相対的に、表1からみて過小評価より過大評価している科目が多いことが分かる。

過小評価より過大評価している問題が多いということは、問題作成委員が設定の仕方を誤ったのか、もっと成績が良くなるはずと期待したことで、この点から見ても期待に反して学力が向上していなかったことになる。これを教師の指導法の未熟さと片づけてよいのだろうか。

1.2 設定通過率との比較

表2は、各問の設定通過率と正答率の比較を2002年1,2月に実施した「教育課程実施状況調査」の中から小学6年と中学3年の算数・数学の調査結果4)とともに表した。

表2 設定通過率との比較(算数・数学):正答率-設定通過率(%)
算数・数学 問題数 設定通過率を下回る 同程度 設定通過率を上回る 正答率
a
(%)
設定通過率
b
(%)

(a-b)
(%)
-20%
以下
-20%
〜-5%
-5%
〜5%
5%
〜20%
20%
以上
小学6年 72 5 18 38 10 1 66.5 70.4 -3.9
中学3年 62 1 17 31 13 0 62.4 62.8 -0.4
高校3年 30 4 20 5 1 0 50.2 61.2 -11.0
  • (注)問題ごとに「正答率−設定通過率」の値を求め、その値によって分類した。

各問の正答率と設定通過率の比較で、同程度の問題は小学6年で38題(52.8%)、中学3年で31題(50%)であったのに対して、高校3年では5題(16.7%)であり、設定通過率を上回る問題は小学6年で11題(15.3%)、中学3年で13題(21%)、高校3年では1題(3.3%)と減り、反対に設定通過率より下回る問題は小学6年で23題(32%)、中学3年で18題(29%)、高校3年では24題(80%)と大幅に増える。

上の表から見て設定通過率よりも実際の正答率が下回っている問題が多いことは、数学の学力が低下していることを示していると見ることができる。

1.3 各教科の得点分布

今回の調査結果から、各科目の成績の統計量をまとめたのが表3である。テストは、教科・科目別に2つの冊子(A,B)が用意されており、生徒はその中の1つの冊子を選択し解答した。

表3-1 国語、数学、英語の統計量
科目 国語I 数学I 英語I
テスト
(問題数)
A
(23)
B
(21)
A
(15)
B
(15)
A
(26)
B
(26)
人数 13,938 13,705 15,408 14,888 14,725 14,853
満点者
(%)
151
(1.1%)
54
(0.4%)
1,551
(10.1%)
1,057
(7.1%)
836
(5.7%)
694
(4.6%)
零点者
(%)
54
(0.4%)
47
(0.3%)
420
(2.7%)
477
(3.2%)
30
(0.2%)
43
(0.3%)
平均値 15.9 15.6 8.0 7.1 15.5 15.5
標準偏差 4.35 3.85 4.56 4.74 7.31 7.50
平均※ 69.0 68.0 53.4 47.6 60.0 60.0
偏差※ 18.93 16.76 30.40 31.57 28.12 28.83
  • (注) カッコ内の数値は、問題数を表す。 満点者、零点者:満点をとった人数、零点をとった人数。
  • 平均※:100点満点に換算した平均値、偏差※:100点満点に換算した標準偏差。

多くの高校生は国語、数学、英語の3教科を受験した。各教科のA、B冊子には平均点で有意な差はなかったが、満点を取った生徒数はいずれもA冊子の方が多かった。その中でも数学Aは1551人(全体の10%)、数学Bは1057人(7%)の満点者があった。一方、零点者は数学で多く、それぞれAは420人(全体の2.7%)、Bは477人(3.2%)もあり、満点者や零点者とも国語や英語のそれらより多かった。

各問題冊子を分布の特徴を見るため得点(素点)を100点満点に換算して統計量を求めた。標準偏差の比較では国語が17〜19点であったのに、英語は28〜29点、数学は30〜32点と分布に散らばりが大きいことがわかった。

表3-2 理科各科目の統計量
科目 物理IB 化学IB 生物IB 地学IB
テスト
(問題数)
A
(25)
B
(26)
A
(27)
B
(26)
A
(27)
B
(27)
A
(27)
B
(28)
人数 2,930 2,904 8,553 8,497 7,110 6,661 1,724 1,628
満点者
(%)
7
(0.2%)
20
(0.7%)
60
(0.7%)
350
(4.1%)
35
(0.5%)
50
(0.8%)
15
(0.9%)
3
(0.2%)
零点者
(%)
23
(0.8%)
15
(0.5%)
50
(0.6%)
36
(0.4%)
42
(0.6%)
50
(0.8%)
10
(0.6%)
4
(0.2%)
平均値 12.9 13.4 11.7 13.3 12.9 11.7 14.7 12.9
標準偏差 5.26 5.81 6.41 6.68 5.97 6.29 5.70 5.70
平均※ 51.5 51.5 43.5 51.2 47.7 43.3 54.4 46.0
偏差※ 21.06 22.35 23.73 25.68 22.11 23.29 21.12 20.36
  • (注) カッコ内の数値は、問題数を表す。 満点者、零点者:満点をとった人数、零点をとった人数。
  • 平均※:100点満点に換算した平均値、偏差※:100点満点に換算した標準偏差。

表3-2は理科の各科目の統計量である。満点者が多かったのは化学IBの350人(全体の4%)で、他の科目の満点や零点を取ったものは受験者の1%未満であった。零点のものの割合は数学が3%前後であったのが、他の科目はすべて1%未満である。また、100点満点に換算した標準偏差の比較でも分かるように数学は他の教科・科目の値と大きく異なる。

2 数学の成績

算数・数学の学力低下については、これまで筆者らの学力調査でも明らかにされていた。しかし、その度ごとに文科省の担当者は、調査した学校、調査数等が少なく信用がおけない、IEA等の調査では依然として世界のトップ水準を維持しているなどの理由で学力低下の事実はないと反論していた。

文科省の調査は、サンプリングにおいても、出題内容も豊富で信頼のおけるものとして高く評価されるとのことである。その結果のまた信頼のおけるものとして、ここではそれに忠実に解釈することにした。

2.1 数学の設定通過率との比較

各問題に事前に「設定通過率」を設けた。それを内容領域及び評価の観点ごとに実際の正答率との差を求め、その差が-5%〜5%の範囲に納まるものを設定通過率と同程度と考えられるもの、5%以上を設定通過率より上回るもの、-5%未満を設定通過率より下回るものに分類したのが報告書にあるが、それに検定結果を付け加えて再掲したのが表4ある。各学年の内容と観点の合計は一致しない。観点には複数の項目に当てはまる問題があるためである。

表4 内容領域別、評価の観点別比較:「設定正答率−正答率」(%)
高校
3年
内容(上段)
観点(下段)
問題数 設定通過率を下回る 同程度 定通過率を上回る 正答率
(%)
A
設定通過率
(%)
B

A-B
-20%以下 -20〜-5% -5〜5% 5〜20% 20%以上
内容 二次関数 9 1 5 3 0 0 60.2 68.9 -8.7
図形と計量 8 0 6 2 0 0 36.4 55.8 -19.4
個数の処理 7 1 5 0 1 0 49.5 58.8 -9.3
確率 6 2 4 0 0 0 46.3 58.6 -9.3
観点 関心・態度 9 1 6 2 0 0 57.4 67.2 -9.8
数学的な考え方 14 3 9 2 0 0 44.3 57.9 -13.6
表現・処理 7 0 5 1 1 0 52.1 60.0 -7.9
知識・理解 11 0 9 1 1 0 46.9 56.4 -9.4
  • (注) 有意差:「正答率−設定通過率」の差の5%有意水準で比率の差検定をおこなった。その結果すべての内容、観点とも有意な差があった。

内容領域では、二次関数9題、図形と計量8題、個数の処理7題、確率6題の中、30題の出題であった。個数の処理からの1題だけが設定通過率を上回る結果が得られ、24題は設定通過率より下回る正答率であった。また、他の領域より設定通過率より正答率の値が少なかった。

観点別に見れば、設定通過率との差が大きいのは数学的な考えであり、すべての領域で設定通過率が実際の正答率を大きく過大評価していたということになる。新しい評価の観点として強調した関心・意欲・態度と数学的な考え方は設定通過率の方が高く、期待される方向へ向上していないことが分かった。

一般に、設定通過率に近い、またはそれ以上の正答率がえられた場合に学力向上の傾向があると判断できるが、今回の調査結果からはそれを否定する結果が得られたのだから算数・数学の核力は向上していないと判断するのが常識的な見方であろう。

2.2 学力の二極化について

高校生3年生に実施した数学成績の結果と、昨年発表した小学6年、中学3年の算数・数学成績の統計量とともに表したのが、次の表5である。

表5 算数、数学の統計量
科目 数学I(高校3年) 数学(中学3年) 算数(小学6年)
テスト
(問題数)
A
(15)
B
(15)
A
(22)
B
(20)
C
(20)
A
(23)
B
(25)
C
(24)
人数 15,408 14,888 15,555 15,795 15,662 17,040 17,061 17,164
満点者
(%)
1,551
(10.1%)
1,057
(7.1%)
404
(2.6%)
591
(3.7%)
419
(2.7%)
886
(5.2%)
194
(1.1%)
802
(4.7%)
零点者
(%)
420
(2.7%)
477
(3.2%)
219
(1.4%)
308
(1.9%)
292
(1.9%)
101
(0.6%)
97
(0.6%)
75
(0.4%)
平均値 8.0 7.1 13.2 12.0 11.9 15.7 15.1 17.0
標準偏差 4.56 4.75 5.66 5.49 5.27 5.34 5.45 5.28
平均* 53.4 47.6 60.0 60.2 59.4 68.2 60.6 70.7
偏差* 30.30 31.57 25.73 27.40 26.35 23.23 26.79 22.00
  • (注) カッコ内の数値は、問題数を表す。 満点者、零点者:満点をとった人数、零点をとった人数。
  • 平均※:100点満点に換算した平均値、偏差※:100点満点に換算した標準偏差。

表5より、高校生の満点者の割合は7〜10%で、小中学生より多い。零点者の割合は、小学、中学、高校生の順に多くなっている。また、100点満点に換算した標準偏差値は高校になるとその開きが大きくなる。

次の図1,2,3は高校3年、中学3年、小学6年の各問1点としたときの素点の得点分布である。

図1 「数学I」得点分布/高校3年 図2 「数学」得点分布/中学3年

昨年公表した文科省発表の小中学生の結果概要では、「得点分布からみた人数の分布については、中位層に分布が厚く、得点の上昇、下降に伴って、分布が薄くなっている。中位層が相対的に薄く、実現状況の高い児童生徒と低い児童生徒に分布が分かれるといういわゆる『学力の2極化』といった状況は見られない。」と述べている。

図3 「算数」得点分布/小学6年

小学6年(図3)や中学3年(図2)の各3種類の得点分布は、算数Bを除いて得点の高いほうに傾いた山が一つのように見えるが、小学6年Bや中学の標準偏差が大きく、中学生になると得点の低い者、得点が高いものの割合が増加する。更に、図1に見るように高校になると、分布の散らばりが大きく、学力の高いものと低い者との「学力の二極化」がはっきりする分布になっている。

図4 算数・数学成績分布

図4には、同種調査の小学6年、中学23年、高校3年の成績分布を1つのグラフに表してみた。各冊子(小中学校では3種、高校では2種)の素点分布の、素点x,平均m、標準偏差sを元に、偏差値z=10*(x-m)/s+50 から新しい度数分布を算出した結果をグラフにした。

これでみると、小学校では55点を頂点とした単峯形、中学校では40〜50点と50点台で、さらに高校では明らかに45点と55点で2つの山を形成している。すなわち成績の二極化が明確に現れている。

多くの学校関係者に聞いてみると、学級ではいわゆる「できる子」と「できない子」の集団ができて指導に苦慮しているという。特に算数・数学などはその傾向が顕著に現れるという。その対策のために習熟度別の指導や少人数指導を行っている学校が多いのである。

筆者らの調査からもはっきり二極化している学級があった。また、多くの学級では正規分布のように山が一つということでなく、台形のような恰好の分布があり、結局分散が大きい得点分布になっていた。

3 数学に対する意識

3.1 生徒の意識

今回の調査では、ペーパーテストだけでなく、生徒及び教師に対して、学習に関する意識などについての質問紙による調査も実施した。

生徒に対する質問紙の中には、「数学の勉強は大切か」、「数学の勉強が好きか」、「数学の授業が良くわかるか」、「平日の勉強時間」等についてここで取り上げる。

今回の調査は高校3年生を対象にしていたが、同様な調査は平成13年度に小学生、中学生にも実施されていた。それらの結果も参考にしながら、「数学の勉強は好きか」、「数学の勉強は大切か」、「数学の勉強はどの程度分かるか」の項目の結果を取り上げたのが表6である。

表6 数学の勉強に対する意識
質問 勉強が好きだ 勉強は大切だ 授業の理解度
学年 項目 そう思う そう思わない そう思う そう思わない 良く分かる 分からない
高校3年
「数学I」
14.2%
557.0
40.7%
470.7
19.5%
529.5
19.8%
446.1
7.0%
579.8
11.6%
426.5
中学3年
「数学」
21.4%
554.3
30.2%
454.9
36.8%
516.4
11.1%
467.1
16.6%
572.1
6.6%
385.8
小学6年
「算数」
23.3%
551.8
25.1%
453.4
58.4%
514.0
3.6%
425.8
21.8%
568.5
3.1%
378.5
  • (注)セルの中の下段の数値は、その項目に反応した生徒の平均成績で、全体平均は500点、標準偏差は100点に標準化されている。

勉強については、「そう思う」、「どちらかといえばそう思う」、「どちらかといえばそう思わない」、「そう思わない」、「分からない」の5項目から、また授業の理解度については、「良く分かる」、「大体分かる」、「分かることと分からないことが半分ぐらいずつある」、「分からないことが多い」、「殆ど分からない」の5項目から選択させた。ここでは高校3年生、中学3年生、小学6年生のデータで、肯定した者(「そう思う」、「良く分かる」)及び否定した者(「そう思わない」、「分からない」)の全体に対する反応率(%)とそれに反応した生徒の平均成績で比較してみた。

事前に予想されたことであるが、「勉強が好きだ」、「勉強は大切だ」に対する肯定的な割合は学年を追うごとに減少し、その反対は学年を追うごとに増加している。成績の比較については、肯定派と否定派との差は、勉強の好き嫌いでは96〜99点、勉強が大切については50〜80点の開きがある。

授業の理解度については、「良く分かる」と「分からない」生徒の成績の差は、小学6年で190点、中学3年で186点、高校3年で153点の大きな差が出た。授業を理解することが成績向上と大きく結びついている。

「私は、勉強すれば、良い成績が取れる」、「父母や先生にほめられるように、勉強したい」等に対する生徒の反応は、次の表7である。

表7 「勉強すれば、…」に対する反応
質問 良い成績が取れる 父母がほめてくれる 先生がほめてくれる
学年 項目 そう思う そう思わない そう思う そう思わない そう思う そう思わない
高校3年
「数学I」
34.3%
514.4
6.3%
462.4
16.5%
500.9
28.1%
498.2
13.7%
504.0
30.2%
497.5
中学3年
「数学」
32.9%
520.3
6.8%
460.1
16.3%
495.3
28.0%
504.3
10.7%
493.2
29.1%
503.9
小学6年
「算数」
26.3%
510.0
7.7%
454.1
18.2%
484.8
21.2%
507.7
10.1%
484.4
22.1%
505.7
  • (注)セルの中の下段の数値は、その項目に反応した生徒の平均成績で、全体平均は500点、標準偏差は100点に標準化されている。

「勉強すれば、良い成績が取れる」と考える生徒は上級学年になるにしたがって多くなり、高校では34%でる。肯定派と否定派の成績には52〜60点の差がでて、そう思うと答えた生徒の成績が良い。「父母は、私が勉強すればほめてくる」と答えた生徒は16〜18%台で、小中学生では否定派の成績は肯定派の成績より良く、小学校で23点、中学生で9点台の差がある。また、「先生は、私が勉強すればほめてくる」と答えた生徒は10〜14%台で、小中学生では否定派の成績は肯定派の成績より良く、小学校で21点、中学生で11点の差がある。しかし、高校生になると肯定派の成績が良くなる。どうも、先生も父母も勉強する子ども、成績の良い子どもを積極的にほめてくれないという結果の現れのように思われる。

次の表8は、「学校の授業時間以外に、1日にだいたいどのくらい勉強しますか(土、日を除いて)」という質問に対する生徒の反応率と成績を比較したものである。

表8 学校外での勉強時間
項目 全く、または殆どしない 30分より少ない 30分以上、1時間未満 1時間以上、2時間未満 2時間以上、3時間未満 3時間以上
学年
高校3年
「数学I」
42.7%
441.7
7.5%
474.3
7.2%
491.4
9.6%
522.8
10.6%
556.1
21.8%
582.0
中学3年
「数学」
8.2%
439.6
5.6%
460.5
9.6%
477.5
23.4%
497.1
28.3%
511.2
23.7%
534.5
小学6年
「算数」
10.7%
458.4
16.8%
482.9
28.1%
499.3
27.1%
513.0
10.4%
524.5
5.3%
555.4
  • (注)セルの中の下段の数値は、その項目に反応した生徒の平均成績で、全体平均は500点、標準偏差は100点に標準化されている。

「全く、または殆ど勉強しない」高校生が43%もいるという衝撃的な結果であるが、2002年に行った小中学生の結果では、小学6年生が11%、中学3年生が8%であったのに比べれば、驚くべき数値である。一方3時間以上勉強すると答えた高校生は22%であった。ところで1時間以上勉強する生徒は、高校生が42%、中学生が75%、小学生が42%となっており、現代の高校3年生は学校外で小学生並の勉強しかしていないという情けない結果が出てしまった。

「3時間以上勉強する」生徒と「全く、または殆ど勉強しない」生徒との成績の差は、高校生で140点、中学生で95点、小学生で51点となっており、高校生の成績の2極化はそのような勉強時間の差に関係するものではなかろうか。

「授業中で分からないことがあったらどうするか」に対しての結果は次の表9に示した。

表9 授業中で分からないことがあったら、…(当てはまるものすべて選ぶ)
項目 その場で先生にたずねる 授業後に先生にたずねる 友人にたずねる 家人にたずねる 塾や家庭教師にたずねる 自分で調べる そのままにしておく
学年
高校3年
数学I
21.0%
480.9
24.8%
543.3
70.3%
503.3
7.2%
496.6
10.0%
554.5
43.3%
528.9
36.0%
474.6
中学3年
数学
20.9%
510.1
21.9%
539.9
69.8%
505.9
21.3%
515.3
41.8%
514.6
42.0%
523.4
23.3%
466.8
小学6年
算数
25.2%
507.5
14.3%
518.1
71.6%
501.9
55.9%
508.6
12.2%
512.0
39.2%
519.2
16.4%
470.4

授業中に分からないことがあったら、「友人にたずねる」生徒が一番多く70%台で、次は「自分で調べる」である。高校生では、「そのままにしておく」、「授業が終ってから先生にたずねに行く」、「その場で先生にたずねる」と続く。高校で成績が良いのは、「塾・予備校や家庭教師の先生にたずねる」、「授業が終ってから先生にたずねに行く」、「自分で調べる」の順で、「そのままにしておく」生徒の成績は小中高校生を通じて最も悪い点数である。

3.2 教師の指導法など

表10は、教師に対する質問紙の中から、宿題、発展的な学習、ティーム・ティーチング(TT)等に対する結果を取り上げてみた。

表10 宿題、発展的な学習、TTについて(教師質問紙)
質問 宿題を出しているか 発展的な課題 TTや少人数指導
項目 多くの時間で出している 全く、殆ど出していない 行っている方だ 行っていない方だ 多くの時間で実施している 全く、殆ど実施していない
学年
高校3年
「数学I」
18.8%
553.4
16.1%
452.4
14.8%
555.1
18.5%
469.2
12.9%
453.6
70.9%
509.9
中学3年
「数学」
16.5%
511.7
8.2%
489.6
14.9%
522.1
9.8%
493.4
19.3%
497.2
55.7%
501.1
小学6年
「算数」
35.0%
502.1
2.8%
491.4
10.3%
508.6
12.6%
496.9
21.4%
501.2
51.0%
498.8

宿題をだしている先生とそうでない先生には、生徒の成績に差がある。特に高校では101点の大きな成績の差が出た。発展的な課題を授業に取り上げている先生のクラスの成績も良い。一方、ティーム・ティーチング(TT)や少人数指導を全くまたは殆ど実施していない学校は、小学校で51%、中学校で56%、高校校で71%であった。そして、小学校以外では、実施していないクラスの成績が良いという結果である。小中学校では成績の大きな差は見られないが、高校ではむしろティーム・ティーチング(TT)や少人数指導の効果が見られないという結果になっている。

また、「理解が不十分な生徒に対し、授業の合間や放課後などに更に指導しているか」という質問に対しては、次の表11のようになっている。

表11 理解不十分な生徒に対しての指導
項目 行っている方だ どちらかといえば行っている方だ どちらかといえば行っていない方だ 行っていない方だ
学年
高校3年
「数学I」
21.2%
512.6
43.4%
505.3
25.5%
493.0
5.2%
473.0
中学3年
「数学」
13.9%
509.2
41.6%
497.3
35.5%
501.3
8.4%
496.5
小学6年
「算数」
16.4%
505.9
52.7%
501.3
26.3%
494.5
3.6%
494.3

「理解が不十分な生徒に対し、授業の合間や放課後などに更に指導しているか」に対して、高校では行っているのが中学校や小学校より多い。また、(行っている)と(行っていない)教師の学級成績には有意な差があり、高校ではその差が大きかった。

4 調査結果から学ぶもの

今回の文科省調査は、生徒や教員に対してのアンケート調査なども同時に行われ、公表されている資料だけでも膨大かつ貴重なものである。今後、教科毎の詳細な結果分析や総合的な報告書の刊行が待たれる。

文科省は、これまで一貫して児童生徒の「学力は低下していない」と言い続けてきた。しかし、これまで見てきたように、小中学校に続いて、高校生の数学や理科の成績が設定通過率よりも大きな差が出て、学力低下が明らかになった。

数学では、二極化の傾向がすでに中学生から現れている。学級ごとに調べてみると生徒の成績が「できる子」と「できない子」に二極化された分布になっている。教室でこのような状態ならば、一斉指導ではどこに焦点当てて指導すればよいか教師が困惑する。標準的な学力の子どもを対象にした教科書を使用すれば、両極の子どもにとっては退屈なものになってしまう。

また、学力低下の中身は、いままで小中学校では「計算技能」等が十分に習熟されていないのが原因とされていた。今回もそれと同じであるが、その外に数学に対する「関心・意欲・態度」や「考え方」をみる問題にも期待した正答率と大きな差が現れた。その傾向は、国語、英語や理科の各教科も同じである。表現の能力、思考・判断、考え方などは関心・意欲・態度とともに1980年代以降の「ゆとり教育」路線で特に強調されたものであった。これが、予想通りの成果を得られていない結果になったということは、これまでの「ゆとり教育」カリキュラムが成功しなかったということになる。

設定通過率の定義「標準的な時間をかけ、学習指導要領作成時に想定された学習活動が行われた場合、個々の問題ごとの通過率」からすれば、その問題の正答率が低かったのは、教師の指導法の未熟さと片づけて、指導方法の改善に矛先を転換しかねない。

生徒達を取り巻く社会的情勢の変化や勉強することの意義を見いだせない現実、1980年代からの「ゆとり教育」によって指導内容や授業時間数の削減が学力低下をもたらす誘因になったのではないかと思う。ゆとり教育がもたらした欠陥を文科省は真摯に受け止めて、早急な学習指導要領の改訂を実行すべきである。

諸外国と比べて、わが国の年間授業時間数は少ない。とくに義務教育段階の数学や国語などの基礎教科がアメリカ、イギリス、フランス等は50%を超える時間数であるのに、わが国は40%強しかない。算数・数学科や国語科などの基礎教科の充実強化は「科学技術創造立国」を支える重要な柱である。学力向上の施策として、基礎教科の授業時間数の増加を切に願いたい。

参考文献

  1. 国立教育政策研究所「平成14年度高等学校教育課程実施状況調査の結果のポイント」
  2. 国立教育政策研究所「平成14年度高等学校教育課程実施状況調査の結果概要について」
  3. 国立教育政策研究所「ペーパーテスト調査集計結果、質問紙調査集計結果」平成16年1月
  4. 国立教育政策研究所「平成13年度教育課程実施状況調査(小学校、中学校)調査集計結果」平成14年12月