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コラム

やはり学力は低下していた

−教育課程実施状況調査結果から−

2003年3月3日

数理検定協会副会長 澤田 利夫

昨年12月文部科学省は、小中学生に実施した「教育課程実施状況調査」の結果を発表した。この調査は、2002年1,2月に全国の小学校5年生(8%)から中学校3年生(6%)の約45万人を対象に、国語、社会、算数・数学、理科、英語(中学生のみ)の学習状況の把握のために国立教育政策研究所が実施した。同種の調査は、昭和56±58年度や平成5±7年度にも当時の学習指導要領の目標・内容に照らした児童生徒の学習状況把握のために旧文部省によって実施されていた。

今回の調査で文部科学省(以下文科省という)が明らかにしたペーパーテストの結果の要点は次のようなものであった。

  1. 学習指導要領の目標・内容に照らした児童生徒の学習状況は、実施した延べ23教科のうち、3教科(中学1,2年理科及び中学3年の英語)以外は、想定した正答率以上で「おおむね良好」であった。
  2. 過去の同一の問題と比較して、義務教育の最終段階の中学3年の状況を見ると、国語及び英語では上昇、社会、数学、理科では変化なしとなっており、学力に低下傾向は無かった。

この結論では、「学力は低下していなかった」ということになる。果たしてそうなのだろうか。多くの新聞等の報道は深刻な学力低下を憂いている。ここではペーパーテストの各教科の全体的結果と算数・数学についてこうした結果の解釈とそれに対する筆者の見解を以下に述べることにする。

1. 全体的な傾向

1-1. 「おおむね良好」だったとする判断

文科省が今回の結果を受けて「おおむね良好」だったと判断したのは、「設定通過率」というものを根拠にしている。ところで、「設定通過率」とは、結果の概要(1)によれば、「学習指導要領に示された内容について、標準的な時間をかけ、学習指導要領作成時に想定された学習活動が行われた場合、個々の問題ごとに正答あるいは準正答の割合の合計である通過率がどの程度になるかということを示した数値である。」を説明している。

ここで、「学習指導要領作成時に想定された学習活動が行われた場合」とわざわざ断ったのは、どういうことだろうか。新学習指導要領では、内容を大幅に削減し、最低基準を設定し、「算数・数学や理科などは、新授業時数のおおむね8割程度の時数で標準的に指導し得る内容に削減した」と旧文部省当局は4年前に力説していたことを思いだす。そして、「このカリキュラムを忠実に実行すれば、全ての子どもは100%理解できる内容で構成されており、落ちこぼれる子どもはでないはず」と文部大臣談話までだしたくらいの意気込みであった。

さて、今回のような学力調査を実施するときは、各問題に予想正答率を設定し、難易度に考慮して全体平均で6±7割前後の正答率で構成されるように設計されるのが普通である。そのためには、事前にプレ・テスト(事前調査)などを実施して難易の程度を調整するものである。

今回の調査では、事前に問題作成委員が各問題についての「設定通過率」を設けた。この通過率を根拠にして、学習効果を測定する判断規準にしたのである。即ち、「正答率-設定通過率」の値が5%以上の問題は予想より学習効果が上がった問題、±5%以下の問題は予想に反して学習効果が上がらなかった問題と判断したのである。

これによると、「設定通過率を上回るもの」と「同程度のもの」の問題数の合計と「設定通過率を下回るもの」の問題数とを比較して、冒頭の「おおむね良好」の結論がえられたとしている。設定通過率より良かったので学習効果が現れていたということになるが、そもそも通過率の設定に問題がある。各問の設定通過率は、予備調査の結果や問題作成者の合議によって設定されたものと推測されるが、予想正答率の設定が甘かった、または低く見積もったということになるとも反論できる。

同様な手法で「設定通過率を下回るもの」と「同程度のもの」の問題数の合計と「設定通過率を上回るもの」の問題数とを比較すると、明らかに向上と考えられるものは小学6年理科と中学3年国語のみであった。これから「おおむね良好」の結論が得られるのだろうか。次の表1は、公表された調査結果のデータをもとにして各教科の問題毎の正答率と設定通過率の差を求めた。

表1 設定通過率と正答率の差:正答率-設定通過率(%)
教科 学年 設定通過率を下回る 同程度 設定通過率を上回る 問題数
-15%以下 -15%〜-5% -5%〜5% 5%〜15% 15%以上
国語 小学5-6 1(0) 3(1) 61(32) 25(6) 1(0) 91(39)
中学1-3 11(4) 24(5) 69(16) 101(37) 14(0) 219(62)
社 会 小学5-6 10(1) 25(9) 71(13) 47(13) 3(0) 156(47)
中学1-3 33(0) 71(27) 100(27) 80(12) 15(1) 299(67)
算数・数学 小学5-6 27(3) 38(12) 73(22) 18(2) 1(0) 157(39)
中学1-3 27(0) 46(12) 81(34) 38(9) 11(0) 203(55)
理科 小学5-6 9(0) 14(5) 60(51) 97(5) 7(0) 187(61)
中学1-3 80(1) 94(34) 115(94) 76(18) 17(1) 382(133)
英語 中学1-3 53(9) 55(19) 59(15) 54(8) 6(0) 244(51)
  • (注)問題ごとに「正答率-設定通過率」の値を求め、その値によって分類した。
  • ( )内の数値は、前回と同一問題の正答率と設定通過率との差で分類した。

事実、設定通過率より15%以上も離れた正答率の問題が数多くある。実際の正答率に比べて過小評価(underestimate)した問題(差が15%以上)として、小学校では国語と算数で各1題、社会3題、理科7題であった。また、中学校では国語14題、社会15題、数学11題、理科17題、英語6題であった。特に、社会中学1年A3(5)(乾燥帯の住居を日本に移築した場合の不都合な季節と内容の住居)では、正答率85.8%(前回正答率91.5%)に対して設定通過率は60%、理科中学1年B6(野外観察を安全に行うための注意事項)では、正答率88.0%(前回正答率91.9%)に対して設定通過率は60%であった。前回の正答率が90%台なのに60%の設定正答率にした理由を問い正してみたい問題例である。

一方、過大評価(overestimate)して実際の「正答率-設定通過率」の値が±15%以下の問題は、小学校では国語1題、社会10題、算数27題、理科9題で、中学校では国語10題、社会33題、数学27題、理科80題、英語53題であった。これらの問題は設定通過率を大幅に下回った問題で、期待通りに学習効果が上がらなかったものである。特に、前回調査で正答率の情報が分かっているのに、国語の中学4題、社会の小学1題、算数の3題、理科の中学1題、英語の9題は過大評価して実際の結果と大きく食い違った問題である。

各教科で最も差の大きかった問題は、国語中学3年A 1二(話の内容を的確にとらえ内容を理解する)では、正答率12.6%(前回正答率10.8%)に対して設定通過率は40%、社会小学5年A6(1)(資料から我が国の主な「貿易相手国」を読み取る)では、正答率25.9%(前回正答率47.0%)に対して設定通過率は70%、算数小学5年7(3)(円の面積)では、正答率53.3%(前回正答率69.1%)に対して設定通過率は75%、理科中学2年B8(2)(天気図と気象衛星画像との関係)では、正答率21.4%(前回正答率18.0%)に対して設定通過率は55%、英語中学2年B2(1)(英語で指定された内容を書く)では、正答率19.3%(前回正答率10.5%)に対して設定通過率は45%であった。相対的に、過小評価より過大評価している教科が多いことが分かる。

更に、表1のカッコ内の数値は前回と同一問題の正答率と設定通過率との差でみた問題数であるが、情報として前回の正答率が分かっているのでこれをもとにした「設定通過率」を設定することができる。ところがその差が「±5%±5%」以内に調査問題の半数以上あった教科は、国語で小学5年、6年、社会で小学6年、中学2年、算数・数学で小学5年、中学1,3年だけであった。理科では小学校のすべての学年、国語、理科や英語では中学のすべての学年で調査問題の半数にも満たなかった。小学校の理科では61題中19題(31%)、中学校の国語では全62題中16題(26%)、社会では67題中27題(40%)、理科では148題中47題(32%)、英語では51題中15題(29%)が設定通過率と同程度と判定されるものになっていた。これはどうしたことだろう。前回の結果を参考にしなかったとするのなら、何を規準にして「設定通過率」を求めたのだろうか。

仮に、前回の成績をもとにして、設定通過率を決めたとして、これらの同一問題はすべて設定通過率と同程度(その差が±5%以内)と仮定すれば、一つの解釈ができる。その結果では、すべての学年・教科(23教科)で「設定通過率を下回る」の問題数が「設定通過率を上回る」と「設定通過率と同程度」の問題数の和より少なくなる。これだと、すべての教科で設定通過率より実際の正答率が良かったということで、「おおむね良好」どころか、学習指導要領の目標・内容に照らして「大変良好」等という結論になったのではないかと思われる。それは果たして現実的な解釈と言えるのだろうか。

過小評価より過大評価している問題が多いということは、問題作成委員が通過率の設定の仕方を誤ったのか、もっと成績が良くなるはずと期待したことであろう。この点から見ても期待に反して学力が向上していなかったことになる。

1-2. 「学力低下は無かった」とする判断

文科省は「過去の同一の問題と比較して、義務教育の最終段階の中学3年の状況を見ると、国語及び英語では上昇、社会、数学、理科では変化なしとなっており、学力に低下傾向は無かった。」との見解を発表して、世間を大変騒がせた学力論争に終止符を打とうとした。

ところが、マスコミや世論の動向は一層学力低下が深刻なものとして受け止めた。例えば、2002年12月16日の読売新聞では、『「おおむね良好」などといえるか』というタイトルの社説が掲載され、その根拠となった通過率や、過去の同一問題による結果の解釈に疑問を呈していた。これを契機として、様々な角度から学力低下に関する対策等が各地でとられようとしている。

ここでは、調査結果を忠実に取り上げ、様々なデータをもとに解釈を加えることにしたい。表2は、過去(平成5±7年度)に文部省が実施した到達度調査に用いた同一問題を今回も出題して、その正答率を比較したものである。

表2 教科、学年別にみた同一問題の比較(%)
区分 問題数 同一問題の比較 正答率(平均) 有意差
前回より上 同程度 前回より下 今回A 前回B 差A-B
国語 小学5年 18 6(6) 7(6) 5(6) 81.7 81.6 0.1 ns
小学6年 21 4(5) 10(5) 7(11) 79.6 80.3 -0.7 ns
中学1年 20 9(9) 7(5) 4(6) 73.5 72.7 0.8 ns
中学2年 22 10(14) 6(2) 6(6) 71.1 68.7 2.4
中学3年 20 13(13) 4(3) 3(4) 70.1 67.5 2.6
社会 小学5年 19 2(2) 5(4) 12(13) 75.8 78.7 -2.9
小学6年 28 2(3) 10(6) 16(19) 68.2 65.7 -3.5
中学1年 31 7(12) 8(2) 16(17) 51.2 52.6 -1.4
中学2年 27 6(6) 3(2) 18(19) 48.4 49.9 -1.5
中学3年 22 5(6) 7(5) 10(11) 67.1 68.0 -0.9 ns
算数数学 小学5年 24 1(1) 7(5) 16(18) 68.2 71.8 -3.6
小学6年 15 1(2) 5(1) 9(12) 63.7 66.4 -2.7
中学1年 16 0(0) 1(0) 15(16) 62.9 68.6 -5.7
中学2年 19 0(0) 4(0) 15(19) 64.3 68.0 -3.7
中学3年 20 2(4) 9(4) 9(12) 62.3 63.6 -1.3
理科 小学5年 29 8(10) 8(5) 13(14) 71.1 71.8 -0.7 ns
小学6年 32 17(21) 10(6) 5(5) 74.3 73.0 1.3
中学1年 37 6(10) 14(5) 17(22) 56.5 59.6 -3.1
中学2年 69 15(20) 19(7) 35(42) 56.8 59.0 -2.2
中学3年 42 16(19) 12(3) 14(20) 62.6 61.5 1.1
英語 中学1年 15 2(3) 3(2) 10(10) 59.3 63.0 -3.7
中学2年 19 7(10) 7(3) 5(6) 54.6 52.4 2.2
中学3年 17 9(10) 2(1) 6(6) 51.1 48.3 2.8
  • (注)比率の差の有意差検定の結果:各問で今回と前回の正答率の差を有意水準1%で検定し、前回より上(今回の正答率が良い)の問題数、前回より下(今回の正答率が悪い)の問題数、同程度(両者に有意な差が無い)の問題数。( )の数値は有意水準5%に算出した問題数。
  • 平均正答率の差:●=今回より前回の成績が上、ns= 両者に有意な差なし、○=前回より今回の成績が上。

分析に当っては報告書(調査の概要)の各問データに当り、5%の有意差で比率の差の検定を独自に行い、文科省のデータ(1%の有意差検定)と一緒に示すことにした。

表2をもとにして、結果の概要では「義務教育修了時点である中学3年の状況を見ると、国語及び英語では上昇、社会、数学、理科では変化なしとなっており、低下傾向はみられなかった。また、延べ23教科中、3教科が上昇、10教科が前回と同様、10教科が低下と考えられる。ただし、上昇、低下とも、正答などの率の変化の幅は、それぞれおおむね3±4%以下であった。」と要約している。

中学3年の国語と英語では、前回の成績より上昇傾向がみられた。社会、数学、理科では、変化なしと判断されたが、有意水準を5%として再計算すると理科は上昇、数学は下降という結論になる。

教育統計などでは、ふつう統計的仮説検定・推定では有意水準を1%ではなく5%を採用するのが常識である。この種の大規模調査では、表中の正答率の差(今回正答率±前回の正答率)が1%前後で有意差有り無しの分かれ目になる。事実、中学3年の数学、理科では有意水準1%で有意差なしと判定されるのである。

また、上記の概要の後段(2)にある「ただし、上昇、低下とも、正答などの率の変化の幅は、それぞれおおむね3±4%以下であった。」と正答率の差が3±4%であることが、あまり問題ではないような印象を与える書き方であるが、問題ごと16000人ものサンプル調査では、その差は大変な違いであり、統計的な扱いとその解釈は慎重でなければならない。ちなみに2000人程度のサンプルであったら、上記の記述は納得できるものである。

これらを参考にして、上の結論を言い換えると次のようになろう。
「義務教育終了時点である中学3年の状況を見ると、国語、理科及び英語では上昇、社会は変化なし、数学では下降となっている。また、延べ23教科中、6教科が上昇、5教科が前回と同様、12教科が低下と考えられる。」
これらのデータから、学力低下の傾向はみられなかったというのは偽りで、「上昇」+「同様」の教科数よりも「下降」の教科数が多いこと等から、全般的に学力は低下しているとみるのが妥当ではないだろうか。

1-3. 各教科の得点分布

「各教科の得点分布などから、今回の調査から『学力の二極化』は無かった」と文科省の関係者は説明している。本当にそうなのだろうか。多くの学校関係者に聞いてみると、学級ではいわゆる「できる子」と「できない子」の集団ができて指導に苦慮していることを聞く。特に算数・数学などはその傾向が顕著に現れるという。そのために習熟度別の指導を行っている学校が多い。筆者らの調査からもはっきり二極化している学級があった。また、多くの学級では正規分布のように山が一つということでなく、台形のような恰好の分布があり、結局分散が大きい得点分布になっていた。今回の調査結果から、国語と算数・数学の成績の統計量をまとめたのが表4(i)、(ii)、(iii)である。テストは、各学年・教科別に3つの冊子(A,B,C)が用意されており、生徒はその内の1つを選択(学級毎)し解答させた。

表4 国語、算数・数学の統計量
(i)小学校5,6年
教科 国語 算数
学年 小学5年 小学6年 小学5年 小学6年
テスト(問題数) A(14) B(16) C(17) A(16) B(15) C(13) A(14) B(16) C(17) A(16) B(15) C(13)
人数 16914 16916 17050 16813 16900 17326 14074 17164 15806 17040 17061 17164
満点 1287 2145 8532 1838 2134 1926 106 134 113 886 194 802
零点 65 58 44 63 67 62 83 84 65 101 97 75
平均値 11.0 13.1 15.9 12.4 12.0 10.6 16.3 17.6 17.5 15.7 15.1 17.0
標準偏差 2.18 2.69 1.93 2.90 2.62 1.72 6.29 6.03 5.45 5.34 5.45 5.28
歪度 -1.3 -1.8 -3.6 -1.1 -1.4 -1.5 -0.3 -0.6 -0.4 -0.7 -0.4 -0.9
尖度 3.0 3.7 19.0 1.6 2.6 5.3 -0.5 -0.3 -0.2 -0.1 -0.5 0.1
  • (注) カッコ内の数値は、問題数を表す。満点、零点:満点をとった人数、零点をとった人数。

小学校の国語や算数は、13±17題から構成されている。満点をとった児童は算数より国語の方が圧倒的に多く、中でも国語5年Cでは全受験者の半数が満点を取っている。国語は一般にやさしい問題構成であった。また、算数では6年AとCで満点者が5%前後で、他の学年に比べて6年Cはやさしい問題構成であった。

国語に比べて算数の標準偏差値は大きく、分布の散らばりが大きい。歪度は分布の偏りの程度をみる指標で、正規分布に近ければ値が0に近く、負であれば分布が左に傾いている(最頻値が中央値より大きく、分布の裾が左に延びている)ことを意味する。また、尖度は正規分布の形の比較する指標で、その値が正の時は分布の形はとがって(鋭角)いることを示し、負の時は相対的に平坦(鈍角)になっていることを示す。国語は正でとがっている分布で、算数は負の値で平坦になっていることになる。国語の小学校5年C は、この中でも特別な形であったことを示している。

表4 国語、算数・数学の統計量
(ii)中学校1±3年:国語
学年 中学1年:国語 中学2年:国語 中学3年:国語
テスト A(27) B(24) C(22) A(27) B(24) C(23) A(27) B(23) C(22)
人数 15404 14705 13793 15274 14892 14802 15651 15742 15090
満点 27 41 240 126 160 261 30 91 227
零点 76 53 65 88 89 89 79 100 73
平均値 18.5 16.3 16.3 18.8 16.6 16.0 18.0 16.0 17.1
標準偏差 4.23 4.04 3.60 4.61 4.39 4.41 4.89 3.96 3.35
歪度 -1.1 -0.9 -1.3 -1.0 -0.9 -0.9 -0.8 -1.1 -1.7
尖度 2.0 1.0 2.7 1.5 1.1 0.8 0.7 1.6 4.5
  • (注) カッコ内の数値は、問題数を表す。満点、零点:満点をとった人数、零点をとった人数。
(iii)中学校1±3年:数学
学年 中学1年:数学 中学2年:数学 中学3年:数学
テスト A(23) B(23) C(23) A(24) B(26) C(22) A(22) B(20) C(20)
人数 14528 14268 14202 15982 15541 15586 15555 15795 15662
満点者 89 258 179 726 512 706 404 591 419
零点者 152 171 158 171 194 230 219 308 292
平均値 11.8 13.5 13.0 15.9 15.3 13.6 13.2 12.0 11.9
標準偏差 5.51 5.62 5.41 5.83 7.14 5.60 5.66 5.49 5.27
歪度 -0.1 -0.4 -1.3 -0.7 -0.3 -0.5 -0.5 -0.5 -0.5
尖度 -0.8 -0.7 -0.7 -0.2 -1.0 -0.5 -0.7 -0.8 -0.7
  • (注) カッコ内の数値は、問題数を表す。満点、零点:満点をとった人数、零点をとった人数。

中学校の国語の問題数は22±27題で、平均値は16±18点台である。数学の問題数は20±26題で、平均値は12±16点台である。国語と数学を比べれば、平均点では数学は平均点が低く標準偏差値は大きかった。分布はすべて左方に偏っていたが、国語の分布はとがっているのに対して、数学はすべて平坦で散らばりが大きかった。

2. 算数・数学の結果

算数・数学の学力低下については、これまで筆者らの調査(2)でも明らかにされていた。しかし、その度ごとに文科省の担当者は、調査した学校、調査数等が少なく信用がおけない、IEA等の調査では依然として世界のトップ水準を維持しているなどの理由で学力低下の事実はないと反論していた。今回の調査は、サンプリングにおいても、出題内容も豊富で信頼のおけるものとして高く評価されるとのことである。その結果のまた信頼のおけるものとして、ここではそれに忠実に解釈することにした。

2-1. 数学の設定通過率との比較

各問題に事前に「設定通過率」を設けた。それを内容領域及び評価の観点ごとに実際の正答率との差を求め、その差が±5%±5%の範囲に納まるものを設定通過率と同程度と考えられるもの、5%以上を設定通過率より上回るもの、±5%未満を設定通過率より下回るものに分類したのが報告書にあるが、それに検定結果を付け加えて再掲したのが表4ある。各学年の内容と観点の合計は一致しない。観点には複数の項目に当てはまる問題があるためである。

表4 内容領域別、評価の観点別比較:「設定正答率±正答率」(%)
学年 領域。観点 問題数 上回る 同程度 下回る 正答率(%) 設定通過率(%) 有意差
小学5年 内容:数と計算
量と測定
図形
数量関係
41
10
12
22
6
0
2
0
24
2
3
6
11
8
7
16
69.2
57.8
63.4
53.0
71.1
73.0
69.6
66.1



観点:関心・態度
数学的な考え方
表現処理
知識・理解
8
26
25
34
1
2
3
3
5
11
10
14
2
13
13
17
81.2
55.4
65.5
67.7
80.6
63.7
72.0
72.9
ns


小学6年 内容:数と計算
量と測定
図形
数量関係
26
19
9
18
2
2
4
3
16
11
5
6
8
7
16
8
64.7
66.5
84.2
60.4
70.8
71.3
77.2
65.6



観点:関心・態度
数学的な考え方
表現処理
知識・理解
7
20
31
21
0
0
5
6
4
7
23
8
3
13
3
7
63.4
52.0
74.7
68.3
72.1
63.8
75.6
69.0



ns
(ii)中学校:数学
学年 領域。観点 問題数 上回る 同程度 下回る 正答率(%) 設定通過率(%) 有意差
中学1年 内容:数と式
図形
数量関係
40
15
14
8
7
1
13
3
4
19
5
9
59.2
69.0
52.3
63.8
66.0
63.6


観点:関心・態度
数学的な考え方
表現処理
知識・理解
10
18
33
18
3
3
7
6
4
3
10
7
3
12
16
5
58.4
46.8
61.4
66.7
62.0
58.3
65.6
67.5



ns
中学2年 内容:数と式
図形
数量関係
32
19
21
7
7
7
15
7
7
10
5
7
62.8
65.7
59.6
65.9
63.4
60.7


ns
観点:関心・態度
数学的な考え方
表現処理
知識・理解
11
20
37
15
5
5
10
6
4
6
19
4
2
9
8
5
59.4
53.9
65.5
67.5
58.6
57.0
66.8
65.3
ns


中学3年 内容:数と式
図形
数量関係
27
19
16
6
3
4
14
10
7
7
6
5
65.3
59.0
61.1
65.7
58.9
62.5
ns
ns
観点:関心・態度
数学的な考え方
表現処理
知識・理解
15
25
22
15
2
4
7
2
8
10
13
8
5
11
2
5
53.7
50.0
73.7
66.8
55.7
52.6
71.4
67.3



ns
  • (注)有意差:「正答率±設定通過率」の差の5%有意水準で比率の差検定を行い、ns=同程度とみられる、●=正答率が設定通過率より下回る、○=正答率が設定通過率より上回る、と判断されるもの。

内容領域は、小学校では数と式、量と測定、図形、数量関係の4領域、中学校では数と式、図形、数量関係の3領域に各問が別けられた。また、評価の観点では算数・数学への関心・意欲・態度、数学的な考え、数量や図形についての表現・処理、数量や図形についての知識・理解の4領域に各問が別けられた。

各領域の平均値でみれば、小学校の内容領域では、6年の図形で設定通過率は正答率を下回ったが、その他はすべて設定通過率の方が上回っていた。評価の観点別にみると、正答率が設定通過率を上回ったものはなかった。中学校の内容領域では、正答率が設定通過率より上回ったものはなかった。小・中学校を通して、数と計算(式)と数量関係領域では設定通過率が高く、図形領域では実際の正答率の方が高く現れていた。新しい評価の観点として強調した関心・意欲・態度と数学的な考え方は設定通過率の方が高く、期待される方向へ向上していないことが分かった。

一般に、設定通過率に近い、またはそれ以上の正答率がえられた場合に学力向上の傾向があると判断できるが、今回の調査結果からはそれを否定する結果が得られたのだから算数・数学の核力は向上していないと判断するのが常識的な見方であろう。

2-2. 過去の調査との比較

今回の調査では、「学力低下」の有無を検証することが目的で、文部省が実施した前回の調査(平成5±7年度)の中から多くの同一問題を出題した。算数は小学5,6年を対象に平成5(1993)年度、数学は中学1±3年を対象に平成6(1994)年度に実施した。算数・数学科では、小学5年24題、小学6年15題、中学1年16題、中学2年19題、中学3年20題、合計94題の同一問題を出題した。

表5 前回調査との比較:算数・数学
領域 区 分 小学5年 小学6年 中学1年 中学2年 中学3年
内容領域 数と計算(数と式) 前回
前回
74.6(16)
● 72.8
72.3(6)
● 70.1
66.6(13)
● 60.6
67.6(11)
● 64.4
66.7(9)
● 65.4
図形 前回
前回
51.6(2)
● 47.6
78.3(4)
ns 78.1
83.1(1)
● 81.6
67.6(4)
● 62.5
62.8(4)
● 58.3
数量関係 前回
前回
60.8(3)
● 49.9
49.9(5)
● 44.5
74.4(2)
● 69.9
69.6(4)
● 65.6
60.0(7)
● 59.3
量と測定 前回
前回
81.4(3)
● 72.2
- - - -
評価の観点 知識・理解 前回
前回
80.0(11)
● 76.8
72.9(4)
ns 72.9
82.9(2)
● 78.9
- 55.9(4)
○ 57.8
表現・処理 前回
前回
63.6(7)
● 58.0
88.6(4)
● 85.9
65.8(9)
● 59.5
75.6(12)
● 72.4
75.1(10)
● 72.8
考え方 前回
前回
66.3(8)
● 62.6
50.1(7)
● 45.8
67.0(4)
● 61.5
55.1(7)
● 50.3
53.0(6)
● 51.9
全体 前回
前回
71.8(24)
● 67.8
66.4(15)
● 63.7
68.6(16)
● 63.1
68.0(19)
● 64.2
63.6(20)
● 61.9
  • (注)( )内の数値は問題数、その他の数値は平均正答率(%)、正答率の差の検定(5%の有意水準)で、●:前回の成績が良い、○:今回の成績が良い、ns:有意差無し、と判断されるもの。

表5は、学年ごとに内容、評価の観点別に分類し、それらの平均正答率で表した。さらに、比率の差の検定を用いて有意差検定した結果を記号で表した。内容領域では、小学6年の図形で有意差無しであった以外は前回の成績が今回の成績よりすべて勝っていた。評価の観点でみると知識・理解では、中学3年の今回の成績が良く、小学6年の成績には差が見られなかった。その他の観点ではすべて前回の方が勝っていた。全体で比べても、今回の成績は前回より下がっていることが分かる。過去との比較ということでは、昭和56±58年度に文部省が実施した到達度調査がある。算数は小学5,6年を対象に昭和56(1981)年度、数学は中学1±3年を対象に昭和57年度に実施した。それらの中から、今回(2002年度)、前回(1993,94年度)そして前々回(1981,82年度)の共通問題の平均正答率で学年ごとに比較してみた。

表6 学年別同一問題の平均正答率の比較
学 年 問題数 今回 前回 前々回 今回-前回 今回-前々回
小学5年 6 66.8 70.3 73.4 -3.5(●) -6.6(●)
小学6年 5 80.8 82.8 86.3 -2.0(●) -5.5(●)
中学1年 5 61.2 67.5 61.0 -6.3(●) +0.2(ns)
中学2年 2 81.5 83.2 81.8 - 1.7(●) - 0.3(ns)
中学3年 4 75.8 79.1 76.0 -3.3(●) -0.2(ns)
  • (注) 有意差:「今回正答率±過去の正答率」の差の5%有意水準で比率の差検定を行い、ns=同程度とみられる、●=今回正答率が過去より下回る、○=今回正答率が過去より上回る、と判断されるもの。
表5 正答率の推移(問題例)
学年 問題 内容 今回(%) 前回(%) 前々回(%)
小5 A1.1 9.3 ×0.82 69.3 73.4 77.2
小5 A1.2 7±0.14÷0.7 31.4 39.1 38.3
小6 B1.1 5/6×4/9 89.9 91.3 94.0
小6 B1.2 2/7÷3/4 87.8 89.7 93.2
中1 A 5.1 7±4(X±3)=11 41.0 47.8 45.6
中1 B1.2 9+(+4)×(±5) 63.1 72.9 67.9

これらの問題は、いずれも計算技能の関するものである。分数の計算や負の数の混じった計算問題など落ち込みが著しい。計算技能が十分に定着していないことを示すと考えられる。

2-3. 学力の二極化について

文科省発表の結果の概要では「得点分布に見た人数の分布については、中位層に分布が厚く、得点の上昇、下降に伴って、分布が薄くなっている。中位層が相対的に薄く、実現状況の高い児童生徒と低い児童生徒に分布が分かれるといういわゆる学力の2極化といった状況は見られない。」と述べている。

果たしてそうだろうか。各地区の学校で盛んに実施されている習熟度別指導は、学力の2極化の対策として取り組んでいる結果ではないだろうか。筆者らの調査では、学級によっては明らかに2極化しているところが多く見られた。

今回の調査分析では、各学年各教科3種(A,B,C)の問題冊子ごとに、平均500点、標準偏差100点に得点を標準化して、それを一緒にした分布で上記の結論を考えていた。今回のような成績の得点分布では、人数が多くなれば当然「大数の法則」で分布が中央に分布が集中する単峯形になることが知られている。

次の表6は、算数・数学の結果表(参考表1-5, 1-6, 1-15, 1-16, 1-17)から、小学5年C、小学6年A、中学1年B、中学2年B、中学3年Bの素の得点分布から、上記の方法で偏差値に直してその区間毎の度数分布を求めたものである。

学校 小学校 中学校
区分 5年C 6年A 3年A 3年B 3年C 3年全体
275点未満 2.1% 2.6% 1.4% 0.0% 1.9% 1.1%
275±325 2.0 4.7 5.1 7.0 4.5 5.5
325±375 6.6 7.8 8.9 9.4 8.6 9.0
375±425 12.7 6.6 7.0 7.0 7.5 7.2
425±475 11.1 13.5 13.8 12.0 14.4 13.4
475±525 19.6 20.5 16.4 16.1 18.1 16.9
525±575 13.2 16.0 19.6 22.8 14.4 19.0
575±625 18.3 23.2 20.6 16.1 22.5 19.7
625±675 11.9 5.2 7.2 9.6 8.1 8.3
675±725 2.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
725点以上 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
合計
(人数)
100.0
(15806)
100.0
(17040)
100.0
(15555)
100.0
(15795)
100.0
(15662)
100.0
(47012)

小学5年Cでは475±525点と575±625点で、小学6年Aでは475±525点と575±625点で、それぞれ2つの山が見られる。また、中学校3年では375±425点でテストA、B、Cいずれでも分布の落ち込みがみられる。


これをグラフに表したのが図1-1(小学校5年C、6年A),図1-2(中学校3年全体と正規分布)である。参考のために図1-2に表した正規分布と比較してみれば、平均偏差値(500点)から100点前後離れたところに分布の山が見られる。また、分布はいずれも右傾しているが、得点の低いところの度数が多く得点の高いところの分布が薄い。このことから全体の分布でも、学力の2極化(多極化)の傾向がみられる。

3. 調査結果から学ぶもの

今回の文科省調査は、これまでになく大規模なもので、問題の作成・実施とも順調に行われた。また、児童生徒や教員に対してのアンケート調査なども同時に行われ、公表されている資料だけでも膨大かつ貴重なものである。今後、教科毎の詳細な結果分析や総合的な報告書の刊行が待たれる。さらに、「生の個人データ」も文科省は公表することになっているという。これらのデータを利用して、各方面で分析検討を加えて、有効なよりよい学力対策を示唆する沢山の報告書が公表されると期待したい。

文科省は、これまで一貫して児童生徒の「学力は低下していない」と言い続けてきた。そして、今回の結果からも「おおむね良好」などと未だに学力低下の事実を容認しようとしない。しかし、これまで見てきたように、過去の調査との比較などから算数・数学科を始め各教科で児童生徒の学力低下が明らかになった。

筆者らが2000〜01年に実施した基礎学力調査でも、とくに分数、小数などの基礎的な計算力の成績低下が目立っていたが、今回の調査結果では算数・数学科の全領域に渡っての学力低下が確認された。

計算問題などのような内容は、反復練習によって学力が回復する。そのための対策として各地区・学校では正規の授業外の時間を作りドリル学習などで基礎学力の向上に向けての実践が行われている。また、学力格差に対応する指導として習熟度別学習を展開するところも多くなってきた。これらはいずれも学力低下に対する対策の一つである。

抜本的な改革は、基礎教科の指導内容の充実と指導時数の改善・回復が要点である。しかし、現実的・即効的な解決としては、総合的な学習時間の活用と宿題時間の確保で、基礎教科の時間数の不足を補てんする必要がある。また、子どもたちに基礎的な勉強の大切さを認識させ、教師は発展的な教材の利用と開発によって授業を充実させることが学力向上のための当面の任務と考えたい。

参考文献

  • 「平成13年度小中学校教育課程実施状況調査の結果概要について」
    「平成13年度教育課程実施状況調査(小学校、中学校)ペーパーテスト調査集計結果」
    国立教育政策研究所教育課程研究センター、平成14年12月
  • 「学力は低下しているか−学力調査報告書-」
    平成12〜13年度科研費報告書、澤田利夫(研究代表者)、平成14年2月

(寄稿)2003年4月 「数学教育」東京理科大学数学教育研究会2003.Vol.45, No.1